第1回:情報スキル活用 理系向け授業についての概要
今回は初回なので実習はない。
以下の文章を読んで、この講義で行うことを理解してほしい。
(欠席などで自宅で学習するばあいは、文章が長いので Edgeの人は読み上げ機能を使ってもよい。)
この授業に必要なものと環境確認
この講義はパソコンの実習を行うので、Office(Word、Excel、PowerPoint)のあるパソコンが必要である。
ほとんどの人はWindowsだと思うが、もしMacしかないという人はメールで連絡をください。
その他、何らかの理由で講義を受ける環境が整わない人も相談に乗るのでメールをください。
講義の構成
この講義は全15回を予定している。
大きく分けて、5パートから成り立つ。
- Wordの作画ツールについて(第2回-第3回)
- Excelのレポート作成に役立つ技について(第4回-第5回)
- Excelでステップを踏みながら計算する方法とマクロの利用(第5回-第10回)
- Excelとデータサイエンス(第11回-第13回)
- ネットワークと知っておいた方がいい最近の話題(第14回-第15回)
それぞれの詳細を以下に説明する。
Wordの作画ツールについて
今の時代では文字しかないページが何枚の続くレポートや、文字しかないスライドがいくつも続くようなプレゼンテーションは歓迎されない。
ビジュアルで攻めていかないと、説得力のあるアピールができない時代である。
Wordの作画ツールというのは、実はかなりよくできている。
三次元グラフィックはさすがにダメだが、二次元についてはかなりよくできているのだが、そのことについての情報はあまり知られていない。
Wordの解説本でも厚い本でないと詳しくは触れられていない。
ただ逆にいうと、Wordの作画ツールを使いこなすと、世間から一目置かれるということである。
Wordの作画ツールは、ExcelやPowerPointの作画ツールと使い方はほぼ同じなので、Wordの作画ツールが使えると、ExcelやPowerPointの作画ツールも使えるようになる。
さらに実をいうと、Illustrator(イラストレーター)などの高度な2次元イラストのアプリとも操作性が似ている。
もちろん、Illustratorなどと比べるとWordの機能は劣る。
ただ、逆にIllustratorなどは機能がありすぎて、最初に学習するときはどこから手をつけたらいいのか困ることがある。
Wordの作画ツールで、2次元イラストを書く上で必要な技を身に着けてからより高度なアプリに進むと理解が進むということがある。
だから、将来高度な2時限の作画アプリをやってみたいという人も、まずWordの作画ツールを使えるようにするといいことだろう。
Wordの作画の基本(第2回)
作画には、手先の器用さや絵心が必要と思うかもしれない。
しかし、マンガのようなイラストを書くなら別であるが、地図や装置の説明図のようなものなら、絵心は必要ない。
Wordにはそういうものがなくても、一定レベルの図が書けるような仕組みも用意されているので安心である。
ただそのためには多少の環境設定や、基本的なツールの使い方の説明が必要である。
第2回では、作図のための環境設定と基本的な操作について学習する。
Wordの作画の高度な技(第3回)
第2回に続いてWordの作画の高度な技を紹介する。
第2回くらいの技なら、市販のWordの解説本にも載っていることがあるが、第3回ではあまり知られてない技も紹介する。
だが、この週の技を知っているとかなり複雑でリアルな図が書けるようになるだろう。
例えば、リアルな地図を書こうとすると下のように一部が曲線になっている場合がある。
このような地図も描けるようになる。
Excelのレポートに役立つ技
Word、Excel、PowerPointはまとめてOfficeと呼ばれるように、事務系の処理のために使われることが多い。
そのため、市販の解説本でも、事務系、特にお金の計算関係の例題で説明していることが多い。
しかし、Word、Excel、PowerPointは理系の分野でももちろん使える。
特に実験レポートの作成で使うことが多いだろう。
第4回講義で情報スキル入門の復習とやや高度な技を紹介したあとに、実験レポート作成を中心にExcelの技を紹介していく
Excelで数式からグラフを作成(第4回)
よく、「レポートの考察に何を書いたらいいのかわからない」という話を聞く。
確かに考察は難しい。
ただ、卒業研究や大学院以上の研究は最先端のことを扱うが、多くの実験は、昔誰かがやった実験が本当に教科書通りになるかを確かめる実験である。
そういうものは、少し調べると理論的な説明が見つかる。
理論式をグラフにすることができると、それと自分の実験結果を重ねて、理論通りの結果になったとか、ほぼ理論どおりであるが少しずれているなどがわかる。
それができると、「この実験結果は、こういう理論で説明できる」とか「少し理論とずれたが、その原因は〇〇であると考えられる。」というような感じで考察に書くネタが増える。
また数学などでも、式だけを見ているとよくわからない関数をグラフ化してみることで、振動しているとか、上がって下がるとか、関数の性質がわかってくることがある。
このように、数式をグラフ化できるようになると、いろいろと役立つので、その技を紹介する、
実験データ処理と誤差(第5回)
実験では誤差がどうしても出てくる。
高校まではあまり意識してなかったかもしれないが、大学レベルのレポートではやはり誤差は無視できない。
誤差の取り扱いに関するExcelの技を紹介する。
特に最小二乗法はよく使われる技である。
複雑な問題をExcelでステップを踏みながら解く
繰り返すが、Excelは事務処理を意識して作られたところがあるが、理系の分野でも使えるアプリである。
手計算や電卓では解きにくい問題も、Excelを使えば解ける場合もある。
ただし、関数一発で答えがポンと出てくるわけではない。
理系分野の複雑な問題を解く場合、いくつかのステップを踏みながら計算していくことになる。
このような問題解決のための手順をアルゴリズムというが、複雑な問題を解くためのアルゴリズムを紹介する。
図形処理(第5回後半)
実は図形処理はあまり使う機会はない。
ただ、何をやっているのかステップごとにわかるので、ステップを踏みながら処理をしていく場合にわかりやすい。
ステップごとの処理のウォーミングアップで、図形処理をやってみる。
微分方程式とマクロ(第8-10回)
微分方程式というのはなかなか難しい。
しかし、理論式は微分方程式で示されていることも多い。
だから微分方程式をグラフ化する技を知っていると、理論式をグラフ化して実験と比較することができる。
Excelで微分方程式を解く場合、シンプルバージョンでは少しおかしな結果が出る場合があるので、改良バージョンを使った方がいい。
ただ、この改良バージョンというのは、表計算ではなかなか面倒であり、毎回それを打ち込むのわずらわしい。
実は、Excelはデータやグラフを保存するだけでなく、手順(アルゴリズム)を保存する方法がある。
それがマクロである。
マクロを使うと、非常に面倒な手順(アルゴリズム)でも比較的簡単に実行できる。
マクロの使い方を学んだら、自分でマクロを作るための手順と簡単なプログラミングを学ぶ
データサイエンス(第11回-第13回)
データサイエンスという言葉がよくつかわれるようになってきたのは、比較的最近である。
それ以前でも多くのデータを扱う分野はあったが、それは統計学の範疇であった。
最近になり、コンピュータやネットワークの急速な発展によって、
- データ収集方法
- データ分析方法
- 分析結果の応用
などにおいて急速な進歩を遂げるようになった。
そこで、これらをまとめてデータサイエンスと呼ばれるようになった。
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データ収集
| 現状分析
| 分析結果の応用
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- アンケート調査
- 調査員が地道に調べる
- 機械が自動的に集める
- ネット上の情報を集める
- その他
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- 統計分析
- データの可視化
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- 未来予測と意思決定
- アプリ開発
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データサイエンスの主な目的は
- 現状の把握とそれを使った人間の意思決定のサポート
- 人間に代わって、かつては人間が行っていた複雑な作業をコンピュータにやらせるシステムの開発
である。前者は主に統計学、後者は人工知能や機械学習などに関連する。
ビジネス分野でのデータサイエンスの利用が最近注目されるが、それ以外の人文系の分野にもいろいろと使われている。
そのためデータサイエンスの知識をもった人材の育成は、人文系、自然科学系を問わず求められている。
そこで、この講義でもデータサイエンスについて説明する。
特に統計関係の技を知っていると、「なんとなくそんな気がする」という結果を数値的に評価することができるので、レポートやプレゼンテーションに説得力を持たせることができる。
よいレポートやプレゼンテーションを書くために知っておいて損はない。
最近の話題(第14回-第15回)
最近、AI(人工知能)やディープラーニングという言葉をよく聞くようになった。
それについては上のデータサイエンスの最後で説明をするが、それ以外にもいろいろな話題がある。
特にインターネット技術について説明する。
現在インターネットを最もよく使っているのは、ビジネスの分野であると言ってよいだろう。
就職したら、そういう部署に配属させる可能性はゼロではない。
だから、インターネットとネットワーク技術に関する話は、文系理系に関係なく知っておいた方がよい。
細かいところは業者に発注して作ってもらうことになるので、あまり細かいところまでは知っている必要はないが(-もちろん、知らないより、知っている方がいいが-)、何もわからないと業者と打ち合わせすらできないかもしれない。
だから、実際に自分でシステムを作る必要はないが、業者とコミュニケーションができる程度には知っておく必要がある。
また、ネットワーク関係の記事が新聞やネットニュースに出ることがあるが、大学生としてニュースを理解できる程度の知識は持っておきたい。
このような予定で全15回を行う予定である。
現在の社会状況とパソコンスキル
会社の求める人材
以下は、AERA '07.5.28号に載っていた話である。
これは事務系の派遣会社の話なので、中には関係ない人もいるかもしれないが、このように世間ではWordやExcelやPowerPointの能力で給料が変わるという事実がある。
そもそも、はWordやExcelやPowerPointはできて当たり前という考えがあるので、これらがうまくつかえないまま卒業して社会に出ると困ることがある。
人材派遣会社毎日コミュニケーションズによると、事務系の派遣の時給は
- ワード・エクセルが出来て1400~1500円
- エクセルの関数が使いこなせると1600円
- パワーポイントでプレゼン資料が作れると1650円以上
(AERA '07.5.28号より)
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この記事で、「おや?」と思う人もいるかもしれない。
Excelの関数は確かの高度な技なので、関数を使いこなすと給料が上がるというのは納得できる。
ただ、一番給料がいいのは"パワーポイントでプレゼン資料が作れる"なのである。
ご存じのように、PowerPointはそれほど難しいアプリではない。
では、なぜこれが一番給料が高いのだろうか?
ポイントは、"パワーポイントが出来て1650円以上"、"パワーポイントが使いこなせると1650円以上"とは書いてないことである。
"プレゼン資料が作れる"と書いてあるところである。
多くの企業が求める能力として、コミュニケーション能力を挙げるところが多い。
決して高い学力を求めているわけではないのである。
コミュニケーション能力にもいくつかあるが、そのうちに一つが「わかりやすく相手に伝える」ということである。
いいプレゼン資料というのは、わかりやすく相手に伝わる資料である。
今の時代、ビジュアルで攻めないとなかなか相手に注目してもらえない。
文字があふれているスライドではダメである。
図や写真、グラフなどが適切に使われているスライドを作成しないといけない。
こう考えると、3番目が一番給料を多くもらえる理由も見えてくる。
単に、PowerPointが使えるだけではだめなのである。
グラフを作るためにはExcelの能力も必要だし、PowerPointの作図機能なども必要になってくる。
また、決められた発表時間で効果的に発表するにはどのような構成にすればいいかという知識も必要になってくる。
つまり、"パワーポイントで(良い)プレゼン資料が作れる"というのは、PowerPointの能力だけでなく、いろいろな能力が必要になってくる。
そう考えると、これの給料が一番高いのも納得できる。
我が国の世界における位置づけ
以下はNewsweek 2015年9月9日の記事である。
日本の学生のパソコンスキルに関する調査である。
参考資料1;を見ると、そもそも10台の日本人は携帯ゲーム機は持っていても、パソコン自体を持ってない。
パソコンは、ネット情報などを見るだけでは使えるようにはならない。
手を動かして勉強しないと身につかないが、そのためにはまずパソコンに触れる環境が必要である。
参考資料2は自己申告なので、控えめな日本人には少し不利だがそれでも、よくない。
(「瑞典」はスウェーデン。なぜ漢字で書いてあるのかは不明)
ただ、逆に言えば、パソコンスキルが高ければ、社会から求められる人材となれる。
皆さんは、まずは手元にパソコンがあるので実習環境は整っている。
この授業で、パソコンスキルを伸ばそう。
AI戦略2019
ここ数年、AI(Artificial Intelligence:人工知能)は急速に進化を遂げた。
かつては研究者が扱うものであったAIは社会に浸透を始めている。
残念ながら、我が国はこの分野でトップランナーとは言い難いのが現状である。
そこで、今後日本がAI産業で世界をリードしていくことを目的に、AI人材を教育するための教育改革や技術体系を確立するための仕組みを目標とした「AI戦略2019」が2019年に政府から発表された。
戦略目標として
- AI時代に対応した人材の育成
- 産業競争力の強化
- 技術体系の確立
- 国際的視点、国際的な研究・教育・社会基盤ネットワークの構築
の四つが掲げられている。
その上で
大目標
デジタル社会の基礎知識(いわゆる「読み・書き・そろばん」的な素養)である「数理・データサイエンス・AI」に関する知識・技能、新たな社会の在り方や製品・サービスをデザインするために必要な基礎力など、持続可能な社会の創り手として必要な力を全ての国民が育み、社会のあらゆる分野で人材が活躍することを目指す
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ということになっている。
私の個人的な意見では、全てにの国民が育まなくてもいいと思っているが、やはり今後は社会にますます「数理・データサイエンス・AI」が浸透していくのは間違いないだろう。
そのようなわけで、この講義でもデータサイエンスとAIについて重点的に説明をすることにした。
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